(初秋の山)
こんにちは,引き続き一時帰国中のタイの晩ごはんです。
日本を縦断した先日の台風の影響でここ数日夏が戻ったかのような陽気でしたが,雲は高く,肌をなでる風は冷たく,やはり季節は着実に秋に向かっていますね。
さて,日本に滞在中の一番の楽しみといえば,美味しい日本酒をいただけることです。
これまで何度か書きましたが,タイで売っている日本酒は日本で買うよりも割高で,種類も限られていますからね。日本にいる間に美味しい日本酒を飲んでおきたい,というわけでで今回も素晴らしい日本酒と出会うことが出来ました。
それがこちら。
信州銘醸株式会社さんの「鼎(かなえ)純米吟醸」です。
鼎の目の部分が顔になっていて,しかも飲ん兵衛っぽい表情になっているところがちょっとツボ。
このお酒,実は今回初めていただきます。
妻の実家の近くにある酒屋さんオススメの一本で,なんでもブラインドによる利き酒コンテストで,あの十四代を抑えて一位に輝いたお酒なんだそう。
実際の味の感想の前に,お酒の詳しいデータを,と思って 信州銘醸さんのHP を見てみたんですが,商品ラインナップにこの「鼎」の姿がありません。
こうなると余計に気になってしまう質ですから,蔵元である信州銘醸さんに直接聞いてみましたよ。ええ。
担当の方のお話によると,この「鼎」は地元長野産の「金紋錦(きんもんにしき)」と「ひとごこち」という酒米を使って醸しているそうです。
長野生まれの酒米の中でも栽培が難しく,”幻の米”と言われているのが金紋錦。当然収穫量も限られていて,鼎の生産量もごくわずか。限られた取扱店にして卸していないお酒のため,HPにも掲載していなんだそうです。
そんなことを聞くと,余計に期待も高まりますね。
早速いただいてみましょう。
色合いは無色透明。
薄っすらと甘い香りが立ち上ります。
飲みくちはスッキリ。
そしてやっぱり甘め。
蔵元によると,日本酒度は-6前後。
日本酒度はプラスが強い程辛口,マイナスに強いほど甘口になります。
しかし,その甘さ以上に感じられるのが香りです。
鼻孔を強く揺さぶる吟醸香。
リンゴを思わせるような華やかな香りが口の中いっぱいに広がります。
信州を代表する銘酒,『大信州』をいただいたときにもこのリンゴのような甘い香りが印象深かったので,信州銘醸さんにも聞いてみました。
「このリンゴのような香りは意図しているものですか?」
答えは否。
吟醸香を出すのは強く意識してるが,香りの特性までは意図していないということです。
でも,長野の美味しいお酒に共通してリンゴのような香りがするのは面白いですよね。
青森の吟醸酒はどうなんでしょうか?
さてさて,美味しいお酒には美味しい肴。というわけで,本日の晩ごはんです。
右からアオリイカのお造り,ハマチの炙り,ハマチのアラ炊き,タコとホタテの刺し身です。
日本酒を真正面から受け止めるべく用意されたこの布陣。強力です。
初夏と秋口が旬のアオリイカ。柔らかな身,甘みの強いその味わいはまさにイカの王様。刺し身にするとたまりません。
ハマチはブリの小さいやつですね。
もちろんそのままいただいても美味しんですが,今日は軽く炙ってみました。
炙ることによって,ハマチ特有の臭みも消え,旨味もグッと増します。
そしてそのハマチのアラを炊いてみました。
魚のアラに熱湯をかけて,流水で血合いなどの汚れををキレイに取り除きます。こうした下処理をしっかりすることによって臭みが消えて美味しい一皿になりますので,面倒でもしっかりとやっておきましょう。
後は酒,砂糖,醤油,味醂で炊くだけです。
沸騰した調味液にアラを放り込んで,落し蓋をしたら中火の弱火で15~20分。
ハマチのアラ炊きの完成です。京都の方では『炊いたん』とも言いますね。
簡単にできる一皿ですが,魚のアラってどうしてこんなに美味しんでしょう?
身よりもアラの方が好きという飲ん兵衛は数知れず。
ではでは,鼎と一緒にいただいてみましょう。
アオリイカはネットリとした身が上顎にくっつくようで,いつまでも噛み締めていたくなるような旨味がグッと口の中を支配します。
そして美味しい日本酒はその旨味をさらに増幅させるんですよね~。
たまりません。
ハマチの炙りもお酒が止まらなくなりそうな仕上がり。
そしてアラ炊きはもう日本酒しかありえません。
純米酒をぬる燗にしたものと合わせると言葉も出なくなりそうです。
そう,鼎なんですが。
飲みくちもスッキリとしていて飲みやすく,香り高く,旨味もしっかり乗っていて程よい酸味もあり,スゴくスゴく美味しいお酒ではあるんですが,なにせその香りが強すぎるんです。
単体で飲むと素晴らしいお酒なんですが,こうやってお魚と合わせるとちょっとどうかなぁ?という感じ。
これは鼎に問題があるわけでも,お魚が悪いわけでもありません。
この二つを組み合わせてしまった私が悪いんです
では,この鼎の良さを十分に引き立てる肴は一体なんでしょうか?
しばらく考えてみてひらめきました。
これも信州名物の馬刺し。これはどうでしょうか?
馬刺しと言えば熊本。熊本といえば米焼酎。ということで,馬刺しに合わせるお酒の筆頭と言えば焼酎ですが,この鼎も結構いけるかもしれません。同じお米が原料ですしね。
香りと旨味がしっかりしている鼎ですから,さっぱりしているのに旨味とコクがある馬刺しともガッツリ渡り合えるはずです。
その副菜として野沢菜漬け。
やっぱり地酒は地のお料理と合わせるのが一番。
ぜひ今度試してみましょう。
でもその機会があるかなー。来月にはタイに戻るしなー。
日本酒にはお魚。という私の先入観をガッツリ取り払ってくれた鼎。
地元で穫れるお米にこだわって醸される日本酒。これぞ地酒ですね。
出荷量は少ないんですが,7~8年前から醸し始めたばかりの新しい銘柄ということもあって,知名度はまだそこまで高くなく,ネットでも探せば購入可能です。
とは言え,このクオリティのお酒ですから,数年後には人気が高まって入手困難になるのは間違いない。と勝手に予想しています。
香り高くて上品な味わいの日本酒を求めているあなた。ぜひ今のうちにお試しあれ。
今日もごちそうさまでした。